小説レビュー:声なき声
「52ヘルツのクジラたち」を読み終えた思いの丈をどうにか表現したくて、ここを選んだ。
思いつきの文章だからまとまってないけど、言語化できて満足している。
ネタバレあるので悪しからず。
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物語のキーとなるクジラの声
言われてみれば、なんとなく想像できる鳴き声。
気に留めたことはないが、穏やかなものを感じる。深い海に深く轟く声。
それが、周波数の違いで誰にも気付いてもらえない52ヘルツのクジラがいるという。世界で一番孤独な存在。
とてつもなく寂しいはずなのに、なぜか同時に美しさを感じた
物語の中で印象的なシーンがある。
主人公が決定的な行動に移せるきっかけとなった、クジラの夢。
クジラの声はアンさんの声で、貴湖への「たすけて」のメッセージ。描かれ方がすごく神秘的で、深青の世界を想像するととても綺麗な、穏やかな気持ちになった。
そんなアンさんの抱えていた苦しみ、52ヘルツの声を想像するだけで胸が締め付けられた。
貴湖と初めて出会った時の気付き、貴湖を救いだした時の「魂の番」の話、「誰よりも貴湖のしあわせを願っている」などといった言葉がけの数々
どうしてアンさんはこんなにも神のような、仏のような優しさを持っているのだろう。こんな人がいてくれたらと思うけれど、あまりにも非現実的ではないか。
その性格に感激しつつ、貴湖にとって半生の支えとなってくれていたことに安堵しつつ、どこか懐疑的に感じていた。
が、それはアンさんにとってどうしようもないバックグラウンドがあったのだと知った時、貴湖や52の受けた暴力よりも大きな石を打ちつけられたような衝撃だった。
愛したい人を愛せない。愛してはいけない。
それは、もしかしたら放棄された愛よりも辛いものかもしれないと感じた
涙が止まらなかった
アンさんが自らの命を奪ってしまったことがやるせなかった
貴湖にも自分のことを責めないでほしかった
人格者は苦しみを知っているから人格者になれる
人の苦しみは救ってあげられるのに、自分の苦しみを背負いすぎている
アンさんが亡くなる経緯のシーンはとてもとても辛かった
ただ、貴湖は生前のアンさんの声を聴くことはできなかったけど、52ヘルツのクジラとして声を聴いてあげることができた
貴湖もアンさんもようやく救われた。二人が救われたことによって、52も救われた。
エンディングはこの救いの連鎖がものすごくよかった。ただのハッピーエンドではない、確実な幸せを得ることができた。
私たちにも、そして私たちの周りにもこういった声なき声ー52ヘルツの声が溢れているのだと思う。
これらを聴くこと、聴いてもらえる人に出会うこと
それがひとつでも多く叶えばと願ってやまない。
ここ数年で一番の作品でした。
出会えてよかった